本コラムは「快眠セラピスト・睡眠環境プランナー 三橋美穂の睡眠情報サイト新しい時代の新しい眠り(コラム)180. 女性ホルモンと睡眠を元に加筆修正いただいた内容です。
睡眠が女性の美と健康を育む理由
女性にとって睡眠は、心身の健康のみならず美容にも影響を与えることは、ご存知の方も多いと思います。深い睡眠中に分泌される成長ホルモンは、タンパク質の素となるアミノ酸の取り込みを促し、細胞内のタンパク質合成を盛んにして細胞を修復します。皮下組織の水分を保ち、肌に潤いやハリを与えています。
私は睡眠不足の日に洗髪をしたら、いつもより抜け毛が多くて驚いたことがあります。睡眠は髪にも影響を及ぼすことを、実感した出来事でした。
しっかり睡眠をとって免疫機能が高まると、細菌の侵入を抑え、肌トラブル防止にも役立ちます。また、食欲を抑えるホルモンのレプチンが増加し、食欲を増進させるグレリンが低下するので、食べ過ぎを防ぐことができます。つまり、ダイエット成功の秘訣は睡眠にあるのです。
女性ホルモンが睡眠に与える影響
美容と健康にとって欠かせない睡眠ですが、実は女性ホルモンのエストロゲンとプロゲステロンが睡眠にダイレクトに影響を与えています。月経後に分泌が増えるエストロゲンは、肌の潤いやツヤを与え、精神状態も安定化させます。代謝もアップするので、痩せやすい時期です。エストロゲンには覚醒作用があり、多少の睡眠不足でも乗り切れます。
妊娠しやすいこの時期は、女性の外見も内面も美しくなり、活動的になります。家の中で寝てばかりいると、パートナーに巡り合えず、子孫を残すことができないからではないでしょうか。
排卵後に分泌が増えるプロゲステロンは、妊娠準備のためのホルモンです。栄養や水分を蓄えるので、太りやすく、むくみやすくなります。プロゲステロンには体温上昇作用があるため、この時期の基礎体温は高温期。熟睡するためには深部体温が下がる必要がありますが、プロゲステロンの影響で睡眠が浅くなり、睡眠の質は低下します。
プロゲステロンには鎮静作用もあるので、昼間の眠気が強くなり、動くのが億劫になります。夜は眠いのに深く眠れず、寝ても寝ても眠いのがこの時期。もし妊娠していたら、じっとしているほうが安全なので、このような仕組みになっているのでしょう。生命の神秘ですね!
女性特有の睡眠の質低下を対処するには?
日常生活を送るうえでは、高温期を乗り切る工夫が必要です。太陽光を浴びる時間をいつもより長くしたり、 ゆっくり入浴して体温のメリハリをつけてみてください。また、仕事やプライベートの予定は詰め込まずに、夜は自分を慈しむ時間にあててみませんか。ゆっくり読書をしたり、マッサージやストレッチをして過ごしましょう。
女性は月経や妊娠で鉄分を消費するので、むずむず脚症候群のリスクがあります。脚の中を虫が這っているような感覚があり、脚を動かさずにはいられなくなる睡眠障害です。まず、鉄分のサプリメントをとり、効果がなければ女性外来や睡眠外来を受診してみてください。病院で処方される鉄剤は、市販品と比べて鉄の含有量が桁違いに多いので、それだけで改善されるケースもあります。
更年期は自律神経が乱れて不眠になりやすい
性は月経周期の影響を受けるだけでなく、更年期に2つの女性ホルモンが急激に減少することで、自律神経バランスが乱れます。これが不眠につながることも。
対策としては、自律神経を整える行動をとること。ウォーキングやヨガには、更年期症状を緩和させる効果が報告されています。週3回以上運動したり、日光浴や深呼吸、入浴など、適度なリフレッシュを心がけましょう。
私は50代になって寝つきがわるくなりましたが、鍼灸で改善されました。睡眠改善が目的ではなく、腰痛の治療で通っていたら自律神経が整って、入眠が早くなったのです。今もたまに眠れないことがありますが、年齢的にみても「まぁ、こんなものかな」と思っています。これくらい気楽に構えることも大切です。
自分を大切に、やさしい肌触りの寝具を
睡眠が浅くなる更年期以降は、寝具の心地よさにも気を配ってみてください。肌触りのやさしい毛布やシーツに触れたときに「あぁ~、気持ちいい」と感じると、体の緊張がゆるんで副交感神経が働きます。また、体に合ったマットレスや枕を使うことで、横たわったときに脱力しやすくなり、入眠しやすくなります。心地よい寝具に包まれて、一日がんばった自分をねぎらいましょう。
女性が生涯を通して睡眠の問題を経験する可能性は、男性の約2倍といわれています。女性ホルモンの働きを知って適切に対処し、自分らしくイキイキとした毎日が過ごせますように。

三橋美穂(快眠セラピスト・睡眠環境プランナー)
寝具メーカーの研究開発部長を経て独立。これまでに1万人以上の眠りの悩みを解決してきており、とくに枕は頭を触っただけで、どんな枕が合うかわかるほど精通。全国での講演や執筆活動のほか、寝具や快眠グッズのプロデュース、ホテルの客室コーディネートなども手がける。
著書に『『オトナ女子の不調と疲れに効く 眠りにいいこと100』(かんき出版)ほか多数。
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